Heat Equation

熱は、なぜ広がる一方なのか

熱いところは冷め、冷たいところは温まり、やがて全体が同じ温度になります。逆は決して起きません。ところがこの式の右辺は、行ったり来たりを繰り返す波動方程式とまったく同じものです。分かれ道は、左辺のたった1か所にあります。

ムーアAIのマスコット、モアくん

グラフの上をドラッグすると、注目する点を動かせます。棒のどこがいま何℃で、次にどちらへ動くのかが分かります。

両辺を同じ色にしてあります。等しいからです。左は「その点の温度が、いまどれだけの速さで変わるか」、右は「その点が、まわりの平均からどれだけズレているか」。この2つは同じものだ、というのが熱伝導方程式の主張です。

注目点の位置 x
温度 u
まわりの平均 − u
変化率 ∂u/∂t
経過時間
総熱量(棒ぜんたいの熱の合計)100.0%
温度差(いちばん熱い所 − いちばん冷たい所)100.0%
表示
操作

下の帯が、棒そのものの色です。濃い金色ほど熱く、淡いほど冷たい状態を表しています。注目点から左右に伸びる破線は「両隣を結んだ線」で、そこから縦に伸びる矢印が「平均からのズレ」=そのまま温度の変化率になります。見やすさのため、両隣は少し離してとってあります。熱は必ず平衡に達して止まるので、動きが完全に止まったら自動で最初からやり直します。

Two quantities

出てくる量は、2つだけです

温度 u

その点がいま何℃か。曲線の高さと、下の帯の色の濃さが、どちらも同じ温度を表しています。

変化率 ∂u/∂t = α∂²u/∂x²

その点が次にどちらへ動くか。まわりより冷たければ温まり、熱ければ冷めます。矢印は1種類しかありません。左辺と右辺が同じものだからです。

波動方程式には「変位・速度・加速度」の3つが必要でしたが、こちらは2つで足ります。時間について1階しかない式は、それだけ単純です。

One term apart

波動方程式との違いは、1か所だけ

2つの式を並べてみます。右辺は、係数の名前が違うだけでまったく同じものです。どちらも「まわりの平均からのズレ」を意味しています。

波動方程式 ∂²u/∂t²(加速度) = c²·∂²u/∂x²
熱伝導方程式 ∂u/∂t(速度) = α·∂²u/∂x²

違うのは左辺の階数だけです。そして、これが結果のすべてを分けます。

ズレが「加速度」になると、行き過ぎます。平らな位置に戻ってきたときには勢いがついているので、そのまま反対側へ通り過ぎてしまう。だから波は振動し、いつまでも止まりません。

ズレが「速度」になると、行き過ぎません。平らになった瞬間にズレがゼロになり、速度もゼロになって、そこで止まる。だから熱はひたすら均されていきます。

まったく同じ山から出発させたところです。上の波動方程式は山が左右に割れて走り、端で跳ね返って戻ってきます。下の熱伝導方程式は、その場でなだらかに崩れて消えていきます。動かしているのは同じ右辺です。
Fine detail dies first

とがったところほど、速く消える

シミュレーションで「こまかいギザギザ」を選ぶと、ギザギザは一瞬で消え、そのあとゆるやかな山だけがゆっくり残ります。細かい凸凹ほど早く消えるというのが、熱伝導方程式のいちばんの特徴です。

理由は右辺にあります。∂²u/∂x² は「まわりとのズレ」ですから、同じ高さの山でも、幅が狭いほどズレは大きくなります。細かい模様は、それだけ強い力で均されるわけです。

きちんと計算すると、k倍こまかい模様は k² 倍の速さで消えます。2倍こまかければ4倍、3倍こまかければ9倍。だから、どんなにギザギザな初期状態から始めても、しばらく経つと決まってなめらかな形になります。

細かさが1倍・3倍・6倍の模様を、同じ振幅から同時にスタートさせています。減衰の速さは 1 : 9 : 36。いちばん下はあっという間に消え、いちばん上だけが最後まで残ります。
Arrow of time

逆再生できない式

波動方程式の動画は、逆再生しても物理的におかしくありません。時間を反転させても同じ式が成り立つからです。熱伝導方程式は、そうはいきません。冷めたコーヒーが勝手に熱くなる映像は、誰が見てもおかしい。この非対称性が、式そのものに書き込まれています。

シミュレーションの2本のバーが、それを示しています。

上の「総熱量」は変わりません。断熱を選んでいるかぎり、熱は棒の中を移動するだけで、生まれも消えもしません。連続の式が質量について言っていたことと、まったく同じ構造です。

下の「温度差」は減る一方です。棒のいちばん熱い所と、いちばん冷たい所の差。これが増えることは決してありません(数学では最大値原理と呼ばれます)。同じ熱を持ったまま、偏りだけが失われていく — これが「熱力学第二法則」と呼ばれているものの、いちばん素朴な姿です。

ちなみに端を「両端を冷やす」に変えると、総熱量そのものが減っていきます。熱が棒の外へ逃げているからで、この場合は最後に全体が0℃になります。「左端を加熱・右端を冷却」にすると、まっすぐな斜めの直線で止まります。両端の温度が固定されているので温度差は縮みませんが、それ以上ならしようのない形にはたどり着いた、という状態です。

連続の式波動方程式熱伝導方程式
∂ρ/∂t + ∇·(ρv) = 0∂²u/∂t² = c²∇²u∂u/∂t = α∇²u
主役密度 ρ変位 u温度 u
時間の階数1階2階1階
ズレの行き先出入りの差加速度になる速度になる
ふるまいそのまま流れる行き過ぎて戻る(振動)均されて止まる(拡散)
保存するもの質量エネルギー総熱量(断熱のとき)
逆再生できるできるできない

同じ「∇²u」という部品が、置かれる場所によって流れにも振動にも拡散にもなります。偏微分方程式を読むときに、まず時間の階数を見るとよい、と言われるのはこのためです。

「動かせる教材」を、つくります

このページは、式を1行ずつ言葉に直しながら、その場で動かして確かめられるように作った教材です。同じやり方で、御社の設備・製品・業務のしくみも「動かせる説明」に変えられます。

社内教育、展示会のデモ、採用説明会の資料など。お問い合わせからお気軽にご相談ください。

ムーアAIのマスコット、モアくん

数値解法は1次元の陽的差分(FTCS、格子点 161、拡散数 α·dt/dx² ≤ 0.4)。物理的な厳密さより、式の各項が目に見えることを優先しています。温度は 0〜1 の無次元量として扱っています。

シリーズ:波は、なぜ勝手に動くのか(波動方程式)渦は、なぜ規則正しく並ぶのか(ナビエ–ストークス方程式)。ナビエ–ストークス方程式の粘性項 μ∇²u は、このページの右辺とまったく同じ働きをします。粘性とは、運動量の熱伝導のことです。着想のきっかけは X の @PhilosophyOfPhy による連続の式の可視化です。